第13回鍼灸外来塾 2006.9.3
山口 功
両下肢の痛みとしびれ
76歳 女性 数年前にご主人を亡くされた患者さんが、両殿部から鼠径部、会陰部、大腿内側にかけての痛みとしびれ、および強い催尿感という10か月前と同じ症状で再来院されました。
現病歴
70歳代の前半までは友人と一緒にフラダンスや書道、カラオケなどを楽しんでいた。
しかし、主人が死んだ後、今から1年3か月前、とくに思い当ることもなく、尾骨付近が痛くなり、次第に腰・殿部から大腿後側と下腿後側にかけて、締め付けられるような痛いみとしびれを感じるようになった。
1年前からは会陰部にもしびれを感じるようになり、尿の回数が極端に増える。時々、両下肢に冷水がヒヤッと流れるように感じることがあった。
10か月前、当院を受療し2回治療を受けたが精査を勧められたので治療を中断し、整形外科(骨粗しょう症)、内科(高血圧症)、泌尿器科(異状なし)、婦人科(異状なし)など、それぞれで診察を受け、服薬しているが一向に改善しない。
現在、両側の殿部から鼠径部、会陰部、大腿内側、両膝内側へかけて常にピリピリとしびれ、痛んでしようがない。時々、両大腿後側に水が流れるように感じるが、おしっこが漏れている様子はない。仰臥位で寝ていると下腿後側が棒のようにツッパリ痛みで目が覚める。立位や腰椎の前屈で鼠径部と大腿内側が痛み、思うように歩けない。買い物にはもっぱら自転車を使っている。また日中は30分に1回は尿意を催し、夜間でも2〜3時間に1回はトイレに起きる。すぐトイレに行きたくなるので、安心して遠出できない。
しびれを伴う痛みは夕方から夜にかけて強くなり、そのために身体が硬くなってしまい、思わず「誰か助けて」と叫びたくなる。どんな病院へ行っても少しも良くならないので、医療者にはついつい「本当に治るのだろうか」と聴いてしまう。
説明モデル
息子夫婦と同居しているが嫁と折り合いが悪く、息子から冷たくされると急に両下肢がしびれて痛くなったりする。
受療動機
重症の坐骨神経痛を鍼灸で治した従姉妹が近所に住んでいて、顔を合わせる度に「治療院に行っているか」と責められるので、仕方なく受療した。
一般健康状態
頻尿のため熟睡できず、体重も減少傾向。食欲はない。排便は正常。発熱はない。
スポーツはしていない。タバコ、酒は嗜まない。降圧剤、循環改善剤、安定剤を服用。既往歴 特になし。
身体診察
身長 155cm 体重 58.0kg BMI 24.2
ケンプ徴候(+)、PTR(+)、ATR(−)、バビンスキー反射(−)、腕橈骨筋反射(+)、二頭筋反射(+)、足背動脈および後脛骨動脈は正常。腰殿部、下肢後側に著明な筋緊張は認められない。前胸部と腹部に筋緊張が認められる。Th3〜5の棘間および背部に圧痛が検出された。
臨床診断
診断名 馬尾性腰部脊柱管狭窄症
根 拠 @センソリーマーチがある(両大腿後側に水が流れるように感じる)
A立位で両下肢に痛みが誘発される
B膀胱・直腸障害がある(催尿感、頻尿、会陰部のしびれ)
本症例は再診のはじめから馬尾性の腰部脊柱管狭窄症を強く推測した。本来、精査を勧めるべきところだが、当時、民間の整形外科病院で治療継続中であり、患者さんの要望に応じて鍼灸治療を試みることにした。
しかし、治療3回目で治療部位が腫れるような感じが3日間継続するという過敏反応が出現した。そのため、治療を一端中断して患者さんの理解を得た上で、公立の医療センターを紹介した。
ところが診断は、脊柱管狭窄症、ヘルニア共に認められず、腰部椎間板障害であった。
また医療センターとの病診連携により加療中の整形外科病院で骨盤のX−Pも撮られたが異状は認められなかった。
治療とその効果
鍼灸は腰・殿部と下肢後側を中心に切皮程度の治療を、再診後に3回、精査依頼後に13回、試みたがいっこうに改善しない。
そこで、本症例の症状の発症から経過までの期間、主訴の内容とその訴え方、治療への反応のし方、一般健康状態などをあらためて見直してみた。
その結果、「心因性疼痛」の可能性が高いことがわかった。
症例のポイント
@ 身体的検査と治療にもかかわらず疼痛が6か月以上続いている。
A 疼痛や症状が日常生活を著明に制限している
B 心理社会的要因と身体的要因との合併が疼痛の発症、持続、重症度に明らかに関係している
今後は、BS−POP(整形外科患者における精神医学的問題に対する簡易質問表)を参考にしながら解釈モデルにもとづいた病態説明により患者さんの満足度を高める治療を模索する必要がある。
2006年10月01日
2006年08月19日
第12回鍼灸外来塾
第12回鍼灸外来塾 2006.6.4
小出良子
右側の殿部と大腿後側の痛み
44歳、女性、主訴は右側の尻と太ももの後の痛み。
整形外科でリハビリを受けたところ症状が増悪し不安になり初来院。
現病歴以前から疲れると腰痛をくり返していた。しかし、とくに治療することもなく自然と治っていた。
今回は、2か月前の朝、起床時に足を第一歩踏み出したところで突然、腰がカクッとなり、右側の殿部と大腿後側につれるような痛みとシビレ感が現れた。痛みは我慢できる程度で、日常生活に支障がなかったため、そのまま放っておいた。
ところが1か月経過しても症状は良くならず心配になり、2週間前に近所の整形外科医院を受診した。X線の結果、異状は認められず、医師から「梨状筋症候群」と診断される。治療としてストレッチやスクワットのリハビリを毎日受けた。しかし、右殿部の痛みが徐々に増悪し我慢できなくなってきた。さらに1週間前から右殿部に「ズキン」という痛みが現れ、心配になって来院した。
現在、仕事で椅子に坐ると、すぐに右殿部がじわっと痛む。つらいので立ち上がろうとするとその瞬間、右側の殿部と大腿後側がつれるように痛む。また1時間半の通勤では電車が揺れるたびに、立っていても坐っていても右殿部が痛んでつらい。
靴下の着脱、寝返り動作、歩行、右下側臥位、前方の物を取る姿勢で症状が誘発する。痛み・しびれ・違和感は日によって異なり、右側の鼠径部、外果、ふくらはぎ、足の母指、大腿外側などに交互に出現する。
また、痛みの程度には波があり、日によってまったく痛まないときもある。仕事は事務職で長時間、椅子に坐りっぱなしであるが、つらいので立ったり坐ったりをくり返している。自発痛あり。夜間痛なし。外傷歴は若いころ交通事故で殿部を打った記憶がある。
解釈モデル 2か月前の社内の異動により猛烈に忙しく帰宅も遅くなり、ストレスがたまっていたこと、1年で体重が8kg増えたこと、冷えなども重なって症状が出たのではないかと思う。そして、いつもの腰痛が神経痛になったのではないかと思う。
受診動機 整形外科にて治療を受けるが、徐々に症状が悪化したため不安になり、もう鍼治療しかないと考えた。
一般健康状態 食欲、睡眠、排便、発熱は正常。アルコール、タバコは嗜まない。薬の服用なし。スポーツはしない。
既往歴 子宮筋腫あり(年1回検診)、高血圧(140−90mmHg)
身体診察 身長155cm 体重58kg BMI 24
One finger testは右側PSIS (上後腸骨棘)、ニュートンテスト(右陽性、左陰性)、パトリックテスト(右陰性、左陽性で鼠径部痛)、ゲンスレンテスト(左右陰性)、
ケンプ徴候(左右陰性)、股関節屈曲・外転・外内旋(陰性)、Kボンネット・テスト(右陽性)。大腿神経伸展テスト(陰性)。
圧痛は右側PSIS (上後腸骨棘)、上、中、上胞肓、 L3椎間関節に認められた。
臨床診断
診断名 仙腸関節性疼痛
根 拠
@One finger testがPSISに認められる
A患側を下にした側臥位で痛みが誘発する
B下肢にdermatomeに一致しないしびれと痛みが認められる
C15分座位の姿勢が続けられない
治療とその経過
本症例は見直し症例である。初診診断は梨状筋症候群、神経根、股関節疾患などの合併を推測した。根拠は明確ではなく、治療的診断に託した。35日間8回の治療を行ったが、まったく症状の緩解が認められなかった。したがって治療的診断が根拠にならないことで、症例を見直した。
見直し後の治療は著明な圧痛が認められたPSIS(上後腸骨棘)、上、中と上胞肓、膀胱兪、L3椎間関節へステンレス鍼40mm-18号、直刺で1.5〜2.0cmひびかせる。15分置鍼。その後、各部位へ糸状灸3壮。
見直し後の治療は28日間、7回(1〜2回/週)行い、4回目で3/10に緩解、7回目で10/10となった。なお、ペインスケールの指標は座位時の殿部痛と仙腸関節の上後腸骨棘(PSIS)の圧痛とした。
症例のポイント
@主訴が殿部痛の場合には、One finger testが必須である
A腰・下肢痛には、しばしば仙腸関節疾患が潜在している
Bニュートン・テストは左右試みる必要がある
小出良子
右側の殿部と大腿後側の痛み
44歳、女性、主訴は右側の尻と太ももの後の痛み。
整形外科でリハビリを受けたところ症状が増悪し不安になり初来院。
現病歴以前から疲れると腰痛をくり返していた。しかし、とくに治療することもなく自然と治っていた。
今回は、2か月前の朝、起床時に足を第一歩踏み出したところで突然、腰がカクッとなり、右側の殿部と大腿後側につれるような痛みとシビレ感が現れた。痛みは我慢できる程度で、日常生活に支障がなかったため、そのまま放っておいた。
ところが1か月経過しても症状は良くならず心配になり、2週間前に近所の整形外科医院を受診した。X線の結果、異状は認められず、医師から「梨状筋症候群」と診断される。治療としてストレッチやスクワットのリハビリを毎日受けた。しかし、右殿部の痛みが徐々に増悪し我慢できなくなってきた。さらに1週間前から右殿部に「ズキン」という痛みが現れ、心配になって来院した。
現在、仕事で椅子に坐ると、すぐに右殿部がじわっと痛む。つらいので立ち上がろうとするとその瞬間、右側の殿部と大腿後側がつれるように痛む。また1時間半の通勤では電車が揺れるたびに、立っていても坐っていても右殿部が痛んでつらい。
靴下の着脱、寝返り動作、歩行、右下側臥位、前方の物を取る姿勢で症状が誘発する。痛み・しびれ・違和感は日によって異なり、右側の鼠径部、外果、ふくらはぎ、足の母指、大腿外側などに交互に出現する。
また、痛みの程度には波があり、日によってまったく痛まないときもある。仕事は事務職で長時間、椅子に坐りっぱなしであるが、つらいので立ったり坐ったりをくり返している。自発痛あり。夜間痛なし。外傷歴は若いころ交通事故で殿部を打った記憶がある。
解釈モデル 2か月前の社内の異動により猛烈に忙しく帰宅も遅くなり、ストレスがたまっていたこと、1年で体重が8kg増えたこと、冷えなども重なって症状が出たのではないかと思う。そして、いつもの腰痛が神経痛になったのではないかと思う。
受診動機 整形外科にて治療を受けるが、徐々に症状が悪化したため不安になり、もう鍼治療しかないと考えた。
一般健康状態 食欲、睡眠、排便、発熱は正常。アルコール、タバコは嗜まない。薬の服用なし。スポーツはしない。
既往歴 子宮筋腫あり(年1回検診)、高血圧(140−90mmHg)
身体診察 身長155cm 体重58kg BMI 24
One finger testは右側PSIS (上後腸骨棘)、ニュートンテスト(右陽性、左陰性)、パトリックテスト(右陰性、左陽性で鼠径部痛)、ゲンスレンテスト(左右陰性)、
ケンプ徴候(左右陰性)、股関節屈曲・外転・外内旋(陰性)、Kボンネット・テスト(右陽性)。大腿神経伸展テスト(陰性)。
圧痛は右側PSIS (上後腸骨棘)、上、中、上胞肓、 L3椎間関節に認められた。
臨床診断
診断名 仙腸関節性疼痛
根 拠
@One finger testがPSISに認められる
A患側を下にした側臥位で痛みが誘発する
B下肢にdermatomeに一致しないしびれと痛みが認められる
C15分座位の姿勢が続けられない
治療とその経過
本症例は見直し症例である。初診診断は梨状筋症候群、神経根、股関節疾患などの合併を推測した。根拠は明確ではなく、治療的診断に託した。35日間8回の治療を行ったが、まったく症状の緩解が認められなかった。したがって治療的診断が根拠にならないことで、症例を見直した。
見直し後の治療は著明な圧痛が認められたPSIS(上後腸骨棘)、上、中と上胞肓、膀胱兪、L3椎間関節へステンレス鍼40mm-18号、直刺で1.5〜2.0cmひびかせる。15分置鍼。その後、各部位へ糸状灸3壮。
見直し後の治療は28日間、7回(1〜2回/週)行い、4回目で3/10に緩解、7回目で10/10となった。なお、ペインスケールの指標は座位時の殿部痛と仙腸関節の上後腸骨棘(PSIS)の圧痛とした。
症例のポイント
@主訴が殿部痛の場合には、One finger testが必須である
A腰・下肢痛には、しばしば仙腸関節疾患が潜在している
Bニュートン・テストは左右試みる必要がある
2006年08月09日
症例プレゼンテーション
鍼灸外来塾においてプレゼンテーションされた症例を、プレゼンターによる症例報告として掲載いたします。内容は非常に整然としていますが、勿論、鍼灸外来塾の臨床推論でこのように展開されている訳ではありません。行きつ戻りつ、何とか脱線を防ぎながら的を絞っていく作業が必死に行われているわけです。
多くの場合、現病歴のまえのO.S.で一端切ってからチューターの誘いにより推論を始めることになります。推論の進め方により、短く1例を1時間で終えることもあれば1例に2時間かかってしまうこともあります。過熱した頭脳と程よい緊張による疲れの後、自分の足りないところと、でも良くやったという充実感が残ります。
また、試行錯誤を経て推論の進め方に沿った発表の仕方、症プレの構成、書き方も現在のような形でまとまりつつあります。その場の興奮もあわせてお伝えできないのが残念ですが、現場で必死に考えている鍼灸師の姿を感じられればと私たちは願っています。
第11回鍼灸外来塾
2006.4.2 増田正人
右環指、小指がしびれる
43歳、女性、神経根症(頚椎)の既往のある患者さんが右環指、小指のしびれを訴えて11年ぶりに来院されました。
現病歴
3か月前、思い当たる原因もなく徐々に右肘内側部に軽い鈍痛を感じていたが2か月位前には気にならなくなっていた。しかし、気にならなくなった数日後、右手の環指、小指にピリピリと針を刺すようなしびれと前腕尺側部に鈍痛を感じるようになり、日がたつにつれ軽くはなったが持続していた。
3週間前、総合病院整形外科を受診し肘部管症候群と診断されたが治療は受けていない。
今回、1週間前から上を向くと右後頚部から肩甲上部にかけてズーンとした痛みを感じるようになり右環、小指のしびれが増悪したため不安になり受診した。
現在、右肘の屈曲で肘の内側が痛み環指、小指の掌側、背側がしびれ、前腕の回外・回外で痛みとしびれが増悪する。寝ていて右肘の内側が布団にあたると環、小指がしびれる。箸で食べ物をつまむと環、小指がふるえて落としてしまう。また、しびれは午後から夕方にかけて強くなる。肘の伸展でしびれは少し楽になる。
しびれは長年仕事で腕を酷使してきた疲労によるものだと思う。
しびれがつらくて仕事(中華麺製造)を休む事はない。しびれは健側および患側の母指〜中指にはない。仕事で小指球を圧迫するようなことはない。安静時にしびれはない。歩行障害はない。膀胱直腸障害はない。食欲、便通、睡眠は良。体重の変化はない。
既往歴
糖尿病や右上肢外傷、転倒の既往はない。
身体診察
身長142cm、 体重50kg、 BMI 24.7
両側の肘・手関節に熱感、腫脹は認められず可動域は正常。Fromentsign(+)、肘部管のTinelsign(+)。触覚障害(右・鈍〉環指・小指の掌側および背側、小指球、前腕尺側、上腕内側に認められる。また右小指球部に軽度の筋萎縮が認められる。
右側の7頚と8頚に圧痛が検出され圧迫により環指、小指にしびれが再現される。尺骨管部に圧痛が検出されたが腫瘤はない。鷲手変形はない。上・下肢深部腱反射(+)、病的反射(−)。
臨床診断
診断名 肘部管症候群と頚椎症性神経根症との合併症。
根 拠
1.肘部管症候群
@右肘の屈曲により肘内側部の痛みと環指、小指のしびれが誘発される。
A環指、小指のしびれは掌側・背側の両側に誘発される。
B巧緻運動障害(箸で食べものをつまむと環、小指がふるえて落としてしまう)がある。
2.頚椎症性神経根症
@頚椎の後屈により右後頚部から肩甲上部に痛みが誘発され環指、小指のしびれが増悪する。
A症状が午後から夕方にかけて増悪する。
B右側のC7・C8に圧痛が検出された。
治療とその効果
環指、小指のしびれ感をペインスケールの指標とする。
治療は伏臥位で右側の7頚〈棘突起外方2cm〉・8頚へ40mm-18号。直刺2cm。扶突は内下方に2cm。海前、庁兪、通里に斜刺1cm。天柱、風池、天など頸肩背部の反応点にも治療を加え15分間置鍼。
126日間、10回の治療でしびれは3/10まで緩解した。
症例のポイント
1.手のしびれはしびれの部位、誘発動作によって鑑別できる。
2.手術適応の肘部管症候群でも鍼灸治療で緩解が期待できる。
多くの場合、現病歴のまえのO.S.で一端切ってからチューターの誘いにより推論を始めることになります。推論の進め方により、短く1例を1時間で終えることもあれば1例に2時間かかってしまうこともあります。過熱した頭脳と程よい緊張による疲れの後、自分の足りないところと、でも良くやったという充実感が残ります。
また、試行錯誤を経て推論の進め方に沿った発表の仕方、症プレの構成、書き方も現在のような形でまとまりつつあります。その場の興奮もあわせてお伝えできないのが残念ですが、現場で必死に考えている鍼灸師の姿を感じられればと私たちは願っています。
第11回鍼灸外来塾
2006.4.2 増田正人
右環指、小指がしびれる
43歳、女性、神経根症(頚椎)の既往のある患者さんが右環指、小指のしびれを訴えて11年ぶりに来院されました。
現病歴
3か月前、思い当たる原因もなく徐々に右肘内側部に軽い鈍痛を感じていたが2か月位前には気にならなくなっていた。しかし、気にならなくなった数日後、右手の環指、小指にピリピリと針を刺すようなしびれと前腕尺側部に鈍痛を感じるようになり、日がたつにつれ軽くはなったが持続していた。
3週間前、総合病院整形外科を受診し肘部管症候群と診断されたが治療は受けていない。
今回、1週間前から上を向くと右後頚部から肩甲上部にかけてズーンとした痛みを感じるようになり右環、小指のしびれが増悪したため不安になり受診した。
現在、右肘の屈曲で肘の内側が痛み環指、小指の掌側、背側がしびれ、前腕の回外・回外で痛みとしびれが増悪する。寝ていて右肘の内側が布団にあたると環、小指がしびれる。箸で食べ物をつまむと環、小指がふるえて落としてしまう。また、しびれは午後から夕方にかけて強くなる。肘の伸展でしびれは少し楽になる。
しびれは長年仕事で腕を酷使してきた疲労によるものだと思う。
しびれがつらくて仕事(中華麺製造)を休む事はない。しびれは健側および患側の母指〜中指にはない。仕事で小指球を圧迫するようなことはない。安静時にしびれはない。歩行障害はない。膀胱直腸障害はない。食欲、便通、睡眠は良。体重の変化はない。
既往歴
糖尿病や右上肢外傷、転倒の既往はない。
身体診察
身長142cm、 体重50kg、 BMI 24.7
両側の肘・手関節に熱感、腫脹は認められず可動域は正常。Fromentsign(+)、肘部管のTinelsign(+)。触覚障害(右・鈍〉環指・小指の掌側および背側、小指球、前腕尺側、上腕内側に認められる。また右小指球部に軽度の筋萎縮が認められる。
右側の7頚と8頚に圧痛が検出され圧迫により環指、小指にしびれが再現される。尺骨管部に圧痛が検出されたが腫瘤はない。鷲手変形はない。上・下肢深部腱反射(+)、病的反射(−)。
臨床診断
診断名 肘部管症候群と頚椎症性神経根症との合併症。
根 拠
1.肘部管症候群
@右肘の屈曲により肘内側部の痛みと環指、小指のしびれが誘発される。
A環指、小指のしびれは掌側・背側の両側に誘発される。
B巧緻運動障害(箸で食べものをつまむと環、小指がふるえて落としてしまう)がある。
2.頚椎症性神経根症
@頚椎の後屈により右後頚部から肩甲上部に痛みが誘発され環指、小指のしびれが増悪する。
A症状が午後から夕方にかけて増悪する。
B右側のC7・C8に圧痛が検出された。
治療とその効果
環指、小指のしびれ感をペインスケールの指標とする。
治療は伏臥位で右側の7頚〈棘突起外方2cm〉・8頚へ40mm-18号。直刺2cm。扶突は内下方に2cm。海前、庁兪、通里に斜刺1cm。天柱、風池、天など頸肩背部の反応点にも治療を加え15分間置鍼。
126日間、10回の治療でしびれは3/10まで緩解した。
症例のポイント
1.手のしびれはしびれの部位、誘発動作によって鑑別できる。
2.手術適応の肘部管症候群でも鍼灸治療で緩解が期待できる。
2006年08月09日
症例プレゼンテーション
第11回鍼灸外来塾
2006.4.2 増田喜代美
右肩の痛み
60歳、女性、卓球歴45年の方が試合中に右肩(肩峰部、大結節周辺)の痛みが再発して来院されました。
現病歴
2か月前、卓球の試合が終わった直後、初めて右肩に軽い痛みを感じた。1か月程で徐々に痛みはなくなった。
今回、2週間前の試合中、瞬間的なツキンとする鋭い痛みを右肩(肩峰部、大結節周辺)に感じた。痛みの程度が前回よりもひどく心配になり整形外科を受診した。X-P検査では異常はなくスポーツのやり過ぎと説明される。消炎鎮痛剤とモビラートで治療して効果がなければ注射をしますと言われ、1週間様子を見たが痛みは変わらなかった。注射は受けていない。
現在、卓球で高いボールのスマッシュとバックサーブが痛みのため出来ない。低いボールは腕を挙げないので打てる。日常動作では、腕を前に伸ばし高い所の物を取るとき、あっとする痛みとひっかかりを肩峰部、大結節周辺に感じる。歩いていて腕が振れると少し痛い。夜間痛はなく痛む側を上にして横になると楽である。随伴症状は、右肩甲骨上角部が重苦しい。
腕は耳につくまで挙げられる。上着は着替えられる。髪のセットは出来る。エプロンは後ろで結べる。肩以外の上肢に痛み、しびれ、脱力感はない。外傷歴はない。
友人の勧めで、早く試合に出られるようになりたいと思い受診した。この痛みは、高いボールのスマッシュが原因だと思う。
スポーツは卓球歴45年、1~3回/1w、2h/1回。
食欲(あり)、大・小便(正常)、睡眠(良好)、体重増減(なし)、発熱(なし)。
既往歴
外傷歴なし。
身体診察
身長153p、体重57kg、BMI 24,3
右肩関節に発赤、熱感は認められない。軽度の腫張が認められる。棘上筋、棘下筋、三角筋に萎縮は認められない。関節拘縮は認められない。
Painful arc sign(+)。90度前後の間で疼痛とひっかかり感、軋轢音が誘発される。
Drop arm sign(−)
肩峰部前縁直下と大結節部に著明な圧痛が認められる。
臨床診断
診断名 肩峰下インピンジメント症候群
根 拠
1.肩峰下インピンジメント症候群
@繰り返す動作(卓球)によって発症している。
A肩を使う動作(スマッシュ)により激しい痛みが誘発される。
B大結節部に著明な圧痛が認められる。
C肩挙上時にひっかかり感、軋轢音がある。
DPainful arc sign(+)
治療とその効果
スマッシュの運動痛をペインスケールの指標とする。
治療は左下側臥位で、少し右肘を後ろに引いて(後挙)大結節部、肩峰部前縁直下の圧痛点へ切皮で単刺。肩ぐう、肩りょう、肩鎖(鎖骨外端の内側2cmの下縁)へ30mm-16号で(肩峰下へ向け1cm)10分置鍼。腹臥位で、左右のC5,C6へ40mm-18号で(斜刺1.5cm)、右の巨骨(斜刺1cm)、臑兪(直刺2cm)、天宗(斜刺1cm)15分置鍼。その他、反応点にも治療を加えた。
卓球を続けながら51日間、13回の治療でペインスケールは2/10に緩解した。スマッシュでの激しい痛みはなく、試合で満足なプレーが出来た。
症例のポイント
インピンジメント症候群はスポーツを続けながらでも鍼治療の効果が期待できる。
2006.4.2 増田喜代美
右肩の痛み
60歳、女性、卓球歴45年の方が試合中に右肩(肩峰部、大結節周辺)の痛みが再発して来院されました。
現病歴
2か月前、卓球の試合が終わった直後、初めて右肩に軽い痛みを感じた。1か月程で徐々に痛みはなくなった。
今回、2週間前の試合中、瞬間的なツキンとする鋭い痛みを右肩(肩峰部、大結節周辺)に感じた。痛みの程度が前回よりもひどく心配になり整形外科を受診した。X-P検査では異常はなくスポーツのやり過ぎと説明される。消炎鎮痛剤とモビラートで治療して効果がなければ注射をしますと言われ、1週間様子を見たが痛みは変わらなかった。注射は受けていない。
現在、卓球で高いボールのスマッシュとバックサーブが痛みのため出来ない。低いボールは腕を挙げないので打てる。日常動作では、腕を前に伸ばし高い所の物を取るとき、あっとする痛みとひっかかりを肩峰部、大結節周辺に感じる。歩いていて腕が振れると少し痛い。夜間痛はなく痛む側を上にして横になると楽である。随伴症状は、右肩甲骨上角部が重苦しい。
腕は耳につくまで挙げられる。上着は着替えられる。髪のセットは出来る。エプロンは後ろで結べる。肩以外の上肢に痛み、しびれ、脱力感はない。外傷歴はない。
友人の勧めで、早く試合に出られるようになりたいと思い受診した。この痛みは、高いボールのスマッシュが原因だと思う。
スポーツは卓球歴45年、1~3回/1w、2h/1回。
食欲(あり)、大・小便(正常)、睡眠(良好)、体重増減(なし)、発熱(なし)。
既往歴
外傷歴なし。
身体診察
身長153p、体重57kg、BMI 24,3
右肩関節に発赤、熱感は認められない。軽度の腫張が認められる。棘上筋、棘下筋、三角筋に萎縮は認められない。関節拘縮は認められない。
Painful arc sign(+)。90度前後の間で疼痛とひっかかり感、軋轢音が誘発される。
Drop arm sign(−)
肩峰部前縁直下と大結節部に著明な圧痛が認められる。
臨床診断
診断名 肩峰下インピンジメント症候群
根 拠
1.肩峰下インピンジメント症候群
@繰り返す動作(卓球)によって発症している。
A肩を使う動作(スマッシュ)により激しい痛みが誘発される。
B大結節部に著明な圧痛が認められる。
C肩挙上時にひっかかり感、軋轢音がある。
DPainful arc sign(+)
治療とその効果
スマッシュの運動痛をペインスケールの指標とする。
治療は左下側臥位で、少し右肘を後ろに引いて(後挙)大結節部、肩峰部前縁直下の圧痛点へ切皮で単刺。肩ぐう、肩りょう、肩鎖(鎖骨外端の内側2cmの下縁)へ30mm-16号で(肩峰下へ向け1cm)10分置鍼。腹臥位で、左右のC5,C6へ40mm-18号で(斜刺1.5cm)、右の巨骨(斜刺1cm)、臑兪(直刺2cm)、天宗(斜刺1cm)15分置鍼。その他、反応点にも治療を加えた。
卓球を続けながら51日間、13回の治療でペインスケールは2/10に緩解した。スマッシュでの激しい痛みはなく、試合で満足なプレーが出来た。
症例のポイント
インピンジメント症候群はスポーツを続けながらでも鍼治療の効果が期待できる。
2005年12月19日
鍼灸外来塾
第1回鍼灸外来塾 2004年7月4日(日) AM.10:00〜12:00
テーマ:右大腿外側部の違和感
発表者 増田正人
第2回鍼灸外来塾 2004年8月8日(日) AM10:00〜12:00
テーマ:肩甲間部痛
発表者 増田喜代美
第3回鍼灸外来塾 2004年10月3日(日) AM10:00〜12:00
テーマ:膝の外側痛
発表者 山口 功
第4回鍼灸外来塾 2004年12月5日(日) AM10:00〜12:00
テーマ:膝の痛み
発表者 小出良子
第5回鍼灸外来塾 2005年2月6日(日) PM2:00〜4:00
テーマ:拇指に力が入らない
発表者 増田正人
第6回鍼灸外来塾 2005年4月3日(日)
テーマ:肩甲部痛
発表者 増田喜代美
第7回鍼灸外来塾 2005年5月8日(日)
テーマ:右殿部〜大腿内側部痛 発表者 山口 功
第8回鍼灸外来塾 2005年6月6日〈日〉
テーマ:左腕が挙がらない
発表者 小出良子
第9回鍼灸外来塾 2005年7月3日(日)
テーマ:右殿部痛
発表者 増田正人
第10回鍼灸外来塾 2006年2月5日(日)
テーマ:高齢者の腰痛(変形性脊椎症と椎間関節症との合併)
発表者 鈴木才介
第11回鍼灸外来塾 2006年4月2日(日)
@テーマ:右肩の痛み
発表者 増田喜代美
Aテーマ:右環指、小指がしびれる
発表者 増田正人
第12回鍼灸外来塾 2006年6月2日(日)
テーマ:右側の殿部と大腿後側の痛み
発表者 小出良子
★鍼灸外来塾へお誘い
勉強会 毎月、第1日曜日 〈1,8月はお休み〉
時 間 AM10:00〜12:00
場 所 西船はり・きゅう
参加ご希望の方は、あらかじめ下記宛までご連絡ください。
医療面接に学ぶ会
TEL/FAX 047-434-5581
Eメール nisifuna@sweet.ocn.ne.jp
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発表者 増田正人
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テーマ:肩甲間部痛
発表者 増田喜代美
第3回鍼灸外来塾 2004年10月3日(日) AM10:00〜12:00
テーマ:膝の外側痛
発表者 山口 功
第4回鍼灸外来塾 2004年12月5日(日) AM10:00〜12:00
テーマ:膝の痛み
発表者 小出良子
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テーマ:拇指に力が入らない
発表者 増田正人
第6回鍼灸外来塾 2005年4月3日(日)
テーマ:肩甲部痛
発表者 増田喜代美
第7回鍼灸外来塾 2005年5月8日(日)
テーマ:右殿部〜大腿内側部痛 発表者 山口 功
第8回鍼灸外来塾 2005年6月6日〈日〉
テーマ:左腕が挙がらない
発表者 小出良子
第9回鍼灸外来塾 2005年7月3日(日)
テーマ:右殿部痛
発表者 増田正人
第10回鍼灸外来塾 2006年2月5日(日)
テーマ:高齢者の腰痛(変形性脊椎症と椎間関節症との合併)
発表者 鈴木才介
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@テーマ:右肩の痛み
発表者 増田喜代美
Aテーマ:右環指、小指がしびれる
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